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カット数を数えてみた。
2010年『ソラノヲト』: 159カット(5話Aパート)
2011年『まどかマギカ』: 151カット(6話アバン+Aパート)
2012年『キルミーベイベー』: 77カット(6話アバン+Aパート)
2023年『異世界のんびり農家』: 141カット(6話)
これを見ても、『キルミー』がいかに長回しを多用しているかが見て取れるだろう。

(続)Aパートが約10分として、一般的なクール制アニメでは平均4秒に1枚のペースで頻繁に絵を切り替えていくスタイルが主流だ。そこではバストショットでの止め絵会話と、状況説明的なロングショット(エスタブリッシングショット)の2種類で間を保たせつつ、バトルシーンでの激しいショット切り替えに枚数を掛けるというコスト配分になりがちだ。

(続)だが、『キルミー』の画面構築は、非常に特殊だ。
1) 一見簡素なSD絵を採用して、
2) 基本的には中距離のカメラでじっくりと長回しをしつつ、
3) キャラクターの全身アクションを巧みに描いている。特異な様式選択と言える。例えば、このスクショのシーンでも、混乱したやすながぐるぐるふらふらと数秒間にわたって踊って(ふらついて)いる。

cactus

(続)お金を掛けた写実志向のアニメーションでもなく、キャラを崩さないように取り澄ましたバストショットアニメでもなく、思いきりデフォルメしたキャラクターたちによるダイナミックな運動表現を、J.C.STAFFが躍動感あるアニメーションに仕上げている。これは本作の魅力であり、また、アニメの豊かな可能性を示すものでもあるだろう。

(続)長回しという観点では、例えば第6話の路上シーン(引用画像)は25秒もの長回しになっている。情景を確立させたうえで、たった二人の機敏な会話劇と賑やかなドツキ漫才に集中させるという意味で、本作のコンセプトとその表現様式は正確に対応している。頻繁なカット切り替えによって疲労感を与えることも無い。

(続)現代アニメだと、「胸上(バストショット)あるいは腰上(ウェストショット)の構図で」+「身じろぎのアニメーションを多少させつつ」+「多人数会話を進行する」というのが典型的なコンテ進行だろう。これは萌えキャラとしての美観を維持しつつ、活きたキャラクターとしての雰囲気を演出できるので、それはそれで一つの最適化された見せ方だろう。

(続)ちなみに、『異世界のんびり農家』も、かなり異例のアプローチを採用している作品ではある。SDカットを多用し、SLG風のマップ演出なども大胆に取り込んでいて、通常の「生真面目にアニメーションさせる作品」というのを大きく逸脱しているからだ。とはいえ、SDショットはあんまり絵を動かしていないし、それ以外のシーンも無難な止め絵主体であるという点で、依然として一般的な現代日本のクール制アニメの枠内にある。

(続)先程例示した『ソラノヲト』は、神戸守監督に率いられて非常に洗練された画面演出を展開しているが、カット数はかなり多い。(萌え)キャラクターを映すだけでなく、情景を示唆する小道具的なカットを多用しているのも一因だろう。キャラクターのアニメーションについても、絵が崩れ気味になるのも厭わず意欲的に絵を動かしている。

(続)だいたいこんなふうにアニメを視聴している。
 『キルミー』のアプローチは、『だぶるじぇい』『野良猫ハート』『ワガママハイスペック』のような5分×12回のショートアニメと並べて捉える方が、妥当な評価を得られるのではないかと思う。これらの作品も、「低コスト制作」+「型破りの融通無碍な演出」+「SDも積極的に導入」といった特徴を持っている。例えば『野良猫ハート』でも、丸々ヤギ動画にアテレコした回がある。

というわけで『キルミー』は、低コストアニメと見做されがちだが、
1) 長谷川眞也氏(総作監)の下で躍動感あるアニメーションを存分に享受できるし、
2) 同世代の赤﨑氏と田村(睦)氏のがっちり噛み合った会話劇も豊かな活力を与えているし、
3) それらは原作由来のドライなスラップスティックの空気にも合致していて、
そういったチューニングの巧みさがアニメ作品としての個性と完成度を、確かに保障している。